曲げわっぱについて
美しい自然杉で作られている曲げわっばは、昔木こりが杉の生木を曲げ桜皮のひもで縫い止めて工夫した手製の弁当箱を始まりとし、今から400年前の慶長年間に武士の手内職として発達し、現在に受け継がれております。秋田杉の白い木肌とすがすがしい木の香りは秋田の暮らしの中で息づいてきた伝統の馨しさを伝えます。自然木は使ってこそイキイキと器本来の機能を果たします。用途に応じて使いこなして頂ければ、職人冥利に尽きます。
作り手のこだわり
細工物はもともと好きだったので家業を継ぐ覚悟で秋田県能代工高の工芸科に入学しました。卒業後は学校で学んだ理論を家業の曲げわっば作りに活かして、業界では初の木工機械を導入。例えば薄い杉板を曲げその接着面をカンナで削る作業(木取り)は一日200枚がせいぜいですが、木工機械の面取盤を使えば1時間で済みます。積極的に機械を導入しましたが、塗りは「手塗り」にこだわっております。塗りも機械化した業者が多い中、量産化ではなく「手塗り」の良さを大事にしたいというのが私の持論です。技術的な進歩はもちろんですが、今後益々、新しい造形デザインの曲げわっば創りを実現したいと患っております。
「日々の暮らしの中で使いやすい曲げわっぱを」
寒さ厳しい北国だからこそ育つ、良質な秋田杉
栗久がつくるのは、真っ直ぐで美しい柾目が特徴の秋田杉の曲げわっぱです。秋田杉は木曽ヒノキ、青森ヒバと並ぶ、日本三大美林と言われています。秋田の厳しい寒さに耐える杉の木は、年輪が引き締まり目が細かく育ちます。温暖な気候で育った杉の年輪は幅が大きくその違いは明らかです。木目が細かいと伸縮が少ないため、狂いが小さく、耐久性に優れた点も良質な木材として重宝される理由のひとつです。秋田杉は植林してから30年くらいは木目が荒く、曲げわっぱの材料として使えるようになるのは樹齢200年から300年も経ってから。木目が細かい秋田杉が育つには、実に長い年月がかかります。この年月に思いを馳せ、曲げわっぱにより一層の愛着を持ってお使いいただけると幸いです。
杉の香りは日本の香り
秋田杉の曲げわっぱは、口に触れた時や蓋を開けた瞬間に、ふわりと森林に包まれたような杉の香りを感じ、心を和やかにさせてくれます。杉は日本固有の木であり、古くから味噌、醤油、日本酒を造る樽やすし桶、おひつなど、日本の食文化に欠かせない木材として親しまれてきました。プラスチックなどにはない、自然の香りを楽しめるのは杉材を使った曲げわっぱの魅力のひとつです。
杉は天然の断熱性と吸湿性に優れた木材
曲げわっぱのお椀に熱い味噌汁を入れて使ってみると、手が熱くならないことに驚くことでしょう。杉は天然の断熱材とも言われ、熱いものは熱いまま、冷たいものは自分の体温が伝わらず冷たいままに保ちます。また、薄く削った板を使う曲げわっぱは、唇の触りも良いため、カップなど飲み物を入れる器としても大変相性の良い製品です。吸湿性の面では、おひつは正に杉の特性を生かした先人の知恵が詰まった道具です。日本は湿気が多いこともあり、ご飯を炊いたらおひつで保存するのが当たり前でした。おひつはご飯の湿気を取って、おいしく保ってくれるもの。栗久のおひつはさらに工夫をして、蓋を分厚くして水滴がご飯に落ちないようにするのと、 内底角に隅丸加工をして、すくい易く、洗いやすく、乾きを早める工夫をしています。
「その時代の声を聞き、喜ばれる形を追求する」
木目の持つ、日本的な美しさを活かしたモダンな形が人気を呼んでいる曲げわっぱ。伝統的なおひつや弁当箱などの他、曲げわっぱの手法で作られたワインクーラやビアカップなど洋をイメージをした新製品の開発にも挑戦しております。伝統工芸というのは、先代の技法にこだわるものではなく、その時代の人たちの要求を聞き入れ、使う人たちに喜ばれる形を追求していくものだと考えております。展示会などで直接お客様からいただく言葉をヒントに、これまでにない機能性や利便性、形造りに奮闘し、何度も何度も失敗を積み重ねた結果から新たな商品は生まれてきます。だからこそ、長く皆様に愛され、何年経っても色褪せず売れ続ける商品となる。これこそが「伝統工芸」だと栗久は考えます。
栗久のおひつは独自の構造